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 ■ 「 龍の駒 」                                 2009,0105

「龍の駒」という言葉をご存知だろうか?
その話の前に、僕自身はプロフィールでも述べている通り、民俗学や山村の暮らし、山の伝説的なものに大変興味があり、そういった類の文献を読むのが嫌いではない。神々の創世的な古代の話も好きだが、もっと現実的でちょと一昔まで伝承されてきたような身近な話しが大好きだ。具体的には近代(明治〜昭和30年程)での文化人類学に興味があり、それは山本素石翁の影響がかなり大きい。
よってこれからもそういった類の話題を僕なりに書いていこうと思う。

前置きが長くなったが「龍の駒」・・・・・・あまり聞きなれない言葉ではないだろうか?
そもそも事の発端は昨年の夏頃の話である。
いつもの様にエノハ釣りに行く為、深夜の道路をひた走っていた。天気もよく月夜であたりはほんのりだが見て取れた。更に僕の車は別注のヘッドライトでかなり明るい。それに加え同等の照射力を持つフォグランプを4機取り付けてる為前方は昼間のような明るさだ。夜間、山間部を通過する時は安全の為必ずそのフォグのスイッチをオンにする。そしてとある山村の集落を通過し、これから先は一時何も無い漆黒の闇が待つエリアに入ろうとした時だった。道沿いのセイタカアワダチソウが大きく揺れた。「ん?何かいる?」・・・・・
僕の車の前を巨大な“影”がゆっくりと横切った。いつも一人の時は“超”がつくほどスローな運転をしている僕は、その前方を横切った“影”をライトの明るさと月明かりも手伝ってしっかりと見て取れた。
ウァッサッ・ウァッサッ・ヒュゥン!!
その影の動きの僕的に最大の表現だ。その影はな・なんと獣であった。それは成熟した牛と変わらぬ大きさ!もっと正確には引き締まった牛といった方が良いのか、それとも若い馬といったほうが解りやすいのか、そう「若駒」が突然僕の前に姿を現した。
僕の実家は農家で和牛も飼っている。小さい頃は馬もいた。いつも見慣れている家畜と見間違う訳は絶対にない。そして更にというか僕が一番驚いたのはその獣がまとっていた立派な角である。
「うぉ〜」思わず声が漏れてしまった。その獣の角は今日の僕達が普通に見れる獣で言えば“ヘラジカ”か“トナカイ”のような横に大きく広がったそして巨大な角をたずさえていた。
「何でヘラジカが居んの〜????」僕から漏れた一言。それは普通につぶやいた、そしてその獣を見た感想だった。ゆっくりと車を停めた僕に一時振り返るようにコチラを見つめ、その巨大な獣はゆっくりと漆黒の闇の待つ山際へと消えていった。
「何や〜今のぉ〜」「ヘラジカかトナカイ?」「何で〜」「オレの見間違い?」自問自答を繰り返しながら車を走らせもう一度思い返してみる。いや見間違いは絶対無い。だったらあの獣は?考えながら真っ先に思いついたのは宮崎駿のアニメ“もののけ姫”に登場する「シシ神」だ!「シシ神様出会っちゃったよ」なんて独り言言ってるとなんだか嬉しくなってきた。もちろんこの日もいつも通りの良い釣りが出来たのは言うまでもない。
それから数日後、友人達にこの話をしたが誰も信じてくれない。もちろん「シシ神」を見たとは言ってない。
巨大な鹿、ヘラジカみたいなのと出合ったと・・・・中間達は「牛と間違った!」「普通の鹿じゃね?」って言ったが僕はきっと違う何かと確信していた。が、なんとなくその話はうやむやのまま終わってしまった。
そんな事件?も忘れていた年末。いつものように前述した民俗学的な情報を探そうとネットで検索していた時の事だ。偶然見つけた“九州の山の民”の暮らしが詳しく書いてあるとあるサイトが面白く、じっくりとそして各ページをくまなく読み漁った。その中で米良の話があった。そう一ツ瀬川上流の村所がある米良地区の話しだ。その中の項目に“メラジカ物語”とうい部分があり、従来のシカともカモシカとも違う別種のシカが発見されたという話だった。
昭和20年代の話で、大学の教授さんたちがしっかりと調べて出した答えだった。
新種のシカ発見!そしてそれが最初に見つかったのが米良だった為“メラジカ”と名づけられたそうだ。その後大分県の国東半島でも発見され、生きたまま捕獲もされたそうだ。棲息地も霧島山系から祖母・くじゅう山系にかけてとあった。しかし大変珍しく、中々見かけることは難しいという。その容姿が詳しく記述されているのだが僕はその部分を読んで鳥肌が立った!
その容姿は僕があの時みた巨大な獣と全くと言っていいほど類似した記述だったのだ。そうあの時の獣は夢でも幻でもなく実在した生物だったのだ。目撃場所もその山系であった。
そして第一発見である米良地区ではたまに見かけるようで人々は、昔からその獣を神の使いとし、畏敬の念を込めて「龍の駒」と呼んでいたという。
龍=竜神=神、駒=馬であろうか?
その「龍の駒」は神通力も持っているという。
まさにもののけ姫に登場する「シシ神様」だったのだ。
僕は心底嬉しかった。もちろんあのヘラジカモドキが見間違いでは無かったという事もあったが、神様の使い!「龍の駒」に出会えたことが本当に嬉しかった。
現実に生存するメラジカ!その「龍の駒」の雄姿にもう一度出会ってみたいと願うばかりだ。


参考ホームページはコチラ→http://www.sysken.or.jp/Ushijima/Den-sekiryoo.html#anchor1260824
中段あたりの「米良」 
       メラジカ物語(中武雅周著 ふるさとの記 米良の荘 より、中武雅周文庫……米良風土記)

HP:牛島 稔大(としひろ)さんのホームページ の九州の山と伝説→九州脊梁山脈・落人の里・・・米良




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