養殖、放流が進むにつれこのタイプが増えてきたように思う。
この魚種?魚体は「本エノハ」の章で語った養殖魚が大半でそれは稚魚放流だろうと
受精卵放流だろうと成長すると殆どがこのタイプになる。多分、長い養殖歴の中で
交配された魚のDNAに「降海型」=スモルト=銀毛の部分が強く残っていったのであろう。
では、どんなタイプか?というと殆どの魚体が白銀色で、パーマークがあってもうっすらと
着いているだけ。一見スモルト化した東北の“ヒカリ”に似ている事から学者の間では
シュードスモルトと呼ばれる擬似銀毛のタイプをさす。更に銀毛しているにも関わらず
海には行かず下っても河口が精々。川によっては殆ど移動せず(下らず)にそのポイントで
急成長していくことも見受けられる。その中途半端な生態から“擬似銀毛”と呼ばれるように
なったのは皆さんもご存知の通りである。
しかし彼らの体高とパワーは通常のヤマメの比ではなくゲームとしてはかなり
エキサイティングである。また、成長が早く短期間に巨大化し、2年くらいで尺を越す魚体も
いる。以前は珍しかった尺物も、エサの豊富な本流を中心によく出会えるようになったのも
この為だろう。地方によっては幅ひろヤマメと呼ばれるほどグラマラスな魚体が多いのだが
それと反比例して顔は意外と小さくそして幼く見えるのも特徴の一つである。
推測ではあるが、養殖場で長い年月世代交代していく内にヤマメ、アマゴがその環境
変化に慣れそれに最適なタイプに変わって行ったのではないだろうか?
例えば水温。養殖池の為移動できずある程度の高水温でも棲息できるようになり、
常に大量のエサを与えられ急成長を促された部分は、食欲旺盛で成長も早くサイズも大きく
なっていく習性、更に銀毛していく本能。こういった部分が交代を繰り返す度に後天性遺伝
として組み込まれていったのだと思う。だから、エサの豊富な本流を中心に稚魚放流、
受精卵放流を問わずこのタイプが増えたのでは?そして、最近はかつてヤマメ、アマゴの
生息しなかった中、下流域にも擬似銀毛が増えたのはこの為だろう。九州の本流でも殆どが
このタイプ。「戻り銀毛」である。基本的には本流と呼ばれる大河川や河口まで堰がない
河川等で釣れるのだが、多分何らかの理由で海に下るのを諦め(ダムの場合は当然)
降海体質のまま河川や河口に留まり、アユの遡上なんかに合わせて中流まで戻ってくる
ので「モドリ」とかトラウト本来の降海型に戻るので「モドリ」とか呼ばれるようになった。
言ってみれば新種のトラウトみたいなものだ。
僕はこのタイプもヤマメ、アマゴと呼んでいる。(ただし“スーパー”を着けるけどね)
また最近は、通常河川や里川でもこのタイプのヤマメアマゴがよく出るようになってきた。
しかも通常河川も含め15cm程から既に銀毛している魚体も出てきている。
ここで余談ではあるが興味深い話がある。
ホームリバーの一つ宮崎北部の本流河川で、地元アユ漁師の方と話しをしていたら
「昔はこの辺には“マス”はおらんかった」と言われた。また、四国最後の川漁師と言われる
仁淀川の漁師さんの人生をまとめた本を読むと同じく、一昔までサツキマスなんか
このあたりには居なかったと。更にマスが網で捕れるようになったのはアマゴの放流が
始まってからだ。と述べていた。なかなか興味深い話である。
また、放流によりトラウトゲームがより身近になりサイズもUPしているが、
放流後の交配でかつての在来種「本エノハ」の血統が薄くなり銀毛ヤマメが増えていく
というのは何とも複雑な気持ちである。 |